宗教と経済の関係―宗教が必要になる社会的要因

HEB project flow icon 02 charts and calendar前回までどうして人は宗教を必要とするのか、社会学理論を中心にして長々しく考察してきました。今回は、実際にこの点についていくつかの統計データを使いながら考察していきたいと思います。もちろん、一番の問いは、経済的に裕福か貧しいか、その違いがどれほど宗教の必要性に影響を与えるのかということです。

貧しい国ほど、宗教は重要になる

誰もが予想する通りでしょうが、やはり貧しい地域の人ほど宗教を重要視する傾向が強くなるようです。以下のデータは、いくつかの統計データ*1を用いて回帰分析したものを私がグラフにしたものです。 



さて、上記のグラフは国名がいっぱいで汚くてわかりにくいかと思いますが、一番左上の部分、つまり貧しい国には、アフリカ諸国や一部の中東諸国、また東南アジアなどが含まれます。

貧しいほど宗教が日常的に重要になる。このことは、誰もがすぐ予想できることですし、このデータを集計したギャロップ社も指摘していることです。

共産主義と移民

とはいえ、こうやってグラフにしてみると、お金だけでは充分に説明できない部分もありそうなことがわかります。(この回帰分析の調整済み決定係数は0.36ですので)、この話は全体のうちの36%くらい説明したに過ぎません。

たとえば(旧)共産圏の国は、いまだに豊かではない国が多いですが、その割には宗教を重要視する人が少ない傾向にあります。グラフの左下には、ロシア(RUS)や、エストニア(EST)、ウクライナ(UKR)、ベトナム(VNM)といった東側諸国が固まっていることがわかると思います。

さらに移民の数も影響しているような気がします。たとえ豊かな国であっても、移民の数が多ければ、相対的に貧しい人は多くなるからです。グラフを見てもそうした傾向は見られませんが。

実際にGDP、共産主義、移民の3つの要因を一度に回帰分析してみるとどうなるでしょうか。(旧)共産圏の国は、そうでない国に比べて、宗教を重要だと思う人の割合が有意に25%近く減ります。さらに全人口に占める移民の割合が10%増えると、宗教の重要性は有意に4%増えることもわかりました。移民は、ちょっとだけ影響はあるということですね。この2つの要因を加えると、(調整済み決定係数は、0.54となり)だいたい全体の54%を説明できたことになります。他にもいろいろな要因がまだ考えられそうですが、調べるのが面倒なのでこのくらいにしておきたいと思います。

おわりに 

というわけで全体としてお金と宗教の重要性は、相互に関係があるということは言えそうです。そして、お金という要因の他には共産主義や移民の数も、それなりに影響を与えていることがわかります*2

しかしさらにまた「代理宗教」の存在もありそうな印象を受けます。データだけ見ると、共産主義という思想を持っていただけで、すぐに宗教への必要性がなくなってしまうほどものごとは簡単だと思えないからです(共産政権が健在で、容赦なく宗教弾圧する社会ならそういうデータが出る可能性はあるかもしれませんが、このデータは冷戦後のものです)。共産主義的な価値観が、代理宗教として機能していた可能性があります。実際、共産主義が宗教的だという指摘はしばしば見られます*3

それと同様に、資本主義国で宗教への価値が低い社会も、別に宗教の重要性が低い代わりに、恋愛や家族がその分強く重要視される傾向にあるかもしれません。とはいえ、これだけのデータでは何もわからないままですが。

そんなわけで今回はちょっと頑張ってデータをいじるなどしてみましたが、特に何かがわかったわけではないという感じになってしまいました。



*1: 縦軸に用いたデータは、ギャロップというアメリカの調査会社のもので、「宗教はあなたの生活で重要なものですか?」という質問に対して、国ごとに何%の人が「イエス」と答えたかを集計しています。それに対して横軸は、一人あたりのGDP(ドル換算)が国ごとにどれだけか、世界銀行のデータを用いました。詳しいソースは、このページの最後を見てください。
*2: まだ読んでいませんが、Ryklin, Michail, 2008, Kommunismus als Religion: Die Intellektuellen und die Oktoberrevolution, Frankfurt am Main und Leipzig: Verlag der Weltreligionen im Insel Verlag.という本などがその話をしているようです。
*3: ただしどちらが先でどちらが後かはわかりません。いつまでも宗教にしがみついているから経済発展できないのか、経済発展するから宗教が必要でなくなるかはなんとも言えないところです。

参考サイト

ギャラップ社, 宗教が重要だと思う人の割合(国別、2009年) http://www.gallup.com/poll/142727/religiosity-highest-world-poorest-nations.aspx

世界銀行, 一人あたりの名目GDP(ドル換算、2009年)※ソマリアは2013年のデータ http://data.worldbank.org/indicator/NY.GDP.PCAP.CD

国連, 全人口に占める移民の割合(2010年) http://www.un.org/en/development/desa/population/migration/data/estimates2/estimates15.shtml

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